忙中、Leica M3 二態

改訂の失敗でオリジナルの書き込みが消えたので再掲(^_^;)
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写真のボディは最初期型、レンズはやはり最初期のsummicron 50mmF2(沈胴)とDR-summicron 50mmF2(後期型)。
私の手元には2台のM3がある。両方とも比較的初期型の804314と747069である(どちらも1955年のウェツラー製)。なぜ初期型かと言うと、おおむね中古カメラ購入に際しては修理技術者氏の意見を聞くことにしており、彼が「M3は初期型」と頑強に言うためである。何百台も中を開けて修理/調整してきたことが言わせしめる言葉で、私はいつも素直に従うことにしている。無口なので多くを語らないが、要するに「つくりが違う」のだそうである。確かにM3は1954-66年の13年間に22万数千台も作られ、また当時の手作り的な香りの残っていた時代の生産物であることも関係して、様々のバリエーションが存在している。それに後日の純正/非純正の改造が付されてきたこともあって「色々なM3」があるのである。趣味として持つのなら、一番凝った/コストをかけたつくりの初期のモデルがいいというのは当然の意見だろう。ただし後期型が悪いというのではない。私は「仕事では使わない」前提で質問したのである。現実には時代が進むにしたがって「改良」と「コストダウン」の両方がなされていったのである。
さて私の上記M3を便宜的に8と7と呼ぶことにする。ではどう違うのであろう。「ライカ通信-1」のp045-046に詳しく整理(20項目)されていて、分かりやすいので興味のある人は見てみると良い。外見と機能で重要なのがいくつかあり、あげてみると 1.フィルムの圧板がガラスから金属へ-1956 2.バックドアにラッチがあったものがなくなる(材質もダイキャストからプレスに変更)-1956 3.フレームセレクターレバーがなかったのが付くようになる-1955 4.フィルム巻き上げがダブルストロークからシングルストロークに-1958 5.シャッターダイアルが倍数系列になる-1957 6.ストラップの吊り環/Rレバーの形状が変わる-1959 7.接眼窓の径が大きくなる(8.5mmから11.5mm)-1962 8.巻き戻しノブのデザイン変更-1955 9.時期ははっきりしないがフィルム巻き上げが「スプリング式」から「ラチェット式」になった-推定1955-6 などがあり、これらが時間と共に少しづつ変化していったのである。したがって前期、後期と言ってもそのラインは決めがたい。とは言え世間ではおおむね吊り環のデザインが変わった1959年あたりで線を引いているようである。一番大きな変更と見られている巻き上げレバーのシングルストローク化が前年にあり、ドッグイヤーと呼ばれる初期からの吊り環のデザイン変更は大きな要素だし、確かにそれ以降は接眼窓の径の変更以外には大きな改変がなく「安定」したようである。だが定着した「DS-ドッグイヤー」というステレオタイプとは別に、どうも技術者氏は1956年のガラスから金属にフィルム圧板が変わった、あるいはシャッター速度が倍数系列に変わった頃に線を引いているように思われる。つまり1954年の700000番から始まり、1956年の854000番の間の約8万台に落ち着くようなのである。はっきりとは言わないが、私にはこの間の機械しか勧めないのである。7のM3は1955年の前半の3番目のロットの「ウェツラー製(表記はウェツラーでもカナダ製もかなりある)、巻き戻しノブのポイントが偏芯した赤点ひとつ、ラッチ付きバックドア、ガラス圧板、ダブルストロークのスプリング式巻き上げ機構、フレームセレクターレバー無し、倍数系列ではないシャッター、フィルムカウンター指標が黒、ドッグイヤーの吊り環受け、8.5mm径の接眼窓となる。8のM3は1955年後半のこの年9ロット目の生産物で、7と変わった点だけ書くと「巻き戻しノブがふたつの赤点(M6限定モデル/MPのノブと同じデザイン)、フレームセレクター付き、フィルムカウンターの指標が白の三角」である。たった半年でこれだけの変化が二波にわたってなされたことになる。
もう一度力説するが、以上の定義での初期型が正論とは言わないし、初期型が良いとも言えない。「勝負しないカメラ」という前提で、技術者氏(当然に彼には専門家としての確信があると思うが、手がかかったカメラだから良いカメラとは言えない)の話をもとに私が考えたものである。結論的には私はこの2台のM3にして良かったと思っている。よくあるM3の評価として「スムーズな作動」というのがあるが、個々の部品の質の良さがボディ全体としての柔らかな作動につながっていることは間違いなく(条件として良く整備された個体でないといけない)、後期~末期の個体よりその感触は一層得られるだろう。性能的にはどうだか分からない・・・つまり同じようなものであろう。以上、使い勝手は後期型は「改良」されているが、その品質感は初期型が良いだろう。